トランスサイレチン(TTR)は、甲状腺ホルモン(サイロキシン)やビタミンAの輸送を担い、かつ神経の保護、記憶や認知機能維持、脳虚血からの保護といった役割をもつ、人体に重要なタンパク質です1,2)
また、血中TTRレベルは、ATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)等の疾患における予後バイオマーカーとしても有用と考えられています3)。血中TTRレベルと予後について検討した臨床試験や研究結果をご紹介します。

  1. 1)Liz MA, et al. Neurol Ther. 2020; 9(2): 395-402.
  2. 2)Vieira M, Saraiva MJ. Biomol Concepts. 2014; 5(1): 45-54.
  3. 3)Hanson JLS, et al. Circ Heart Fail. 2018; 11(2): e004000.

1. 血中TTRレベルと予後の関係

1)有効性の曝露-反応(E-R)解析による血清TTRレベルの影響[臨床試験]

血清TTRレベルが5mg/dL増加するごとに、全死因死亡のオッズが30.6%減少すると予測されました1)

  • ATTRibute-CM試験(ビヨントラ®の海外第III相試験)と海外第II相試験のデータを使用し、TTRレベルに関する曝露-反応(E-R)解析(EIDO-PMX-AG10-2264)が実施されました。
  • 治療開始28日時点*1の血清TTRレベルの増加と全死因死亡リスクの低下は関連しており、血清TTRレベルが5mg/dL増加するごとに、全死因死亡のオッズが30.6%減少すると予測されました(名⽬上のp値=0.00294、単変量ロジスティックモデル、海外データ)。
  1. *1:28日時点のデータはATTRibute-CM試験のみ
EIDO-PMX-AG10-2264 解析: 本解析の主な目的は、健康成人及び症候性ATTR-CM患者におけるアコラミジスの母集団PKについて記述することである。             有効性の曝露-反応(E-R)解析は、AG10-201試験及びATTRibute-CM試験のATTR-CM患者を対象として実施された。この解析では次の両方の基準を満たすATTRibute-CM試験の136例が評価対象であった。             1.目的の有効性又は安全性エンドポイントを少なくとも1回測定し、関連するサンプリング時間がある。2.集団PK 解析から得られた個々のPK パラメータの推定値がある(プラセボを除く)。PKが奏効を促進すると仮定して、次の有効性評価項目を解析した;              階層的複合主要エンドポイントの構成要素(全死因死亡、心血管系による入院、NT-proBNPのベースラインからの変化、6MWT距離のベースラインからの変化)及びin  vivoでのTTR安定化を評価するためのTTRデータ(ベースラインからの循環濃度変化率等)。              各エンドポイントについて、特定のモデリングアプローチは探索的データ分析によって導かれた。すべてのモデル回帰において、効果係数がp<0.05のWald検定に合格した場合、統計的に有意であると判断された。バイナリー変数については、被験者1人につき1観察値を用いて線形ロジスティックモデルを検討した。              ATTRibute-CM試験: ATTR-CM患者632例にビヨントラ又はプラセボを投与した際の、FPE法及びウェスタンブロット法におけるTTRの安定化と30ヵ月間における全死因死亡割合を評価した。AG10-201試験: ATTR-CM患者49例にビヨントラ又はプラセボを投与した際の、FPE法及びウェスタンブロット法におけるTTRの安

2)血漿TTRレベルと心不全発症リスク[疫学研究]

血漿TTRレベルと心不全発症との関連を検討した研究で、血漿TTR 低値群*2、中間群*2、高値群*2で比較したところ、低値群では他2群より心不全の発症リスクが有意に高いことが報告されました(p<0.001、Gray検定、海外データ)2)

  1. *2:血漿TTRレベルが5パーセンタイル以下を低値群、5~95パーセンタイルを中間群、95パーセンタイル以上を高値群と定義している。
方法: 全国市⺠登録システムを使用して自記式質問票、身体検査、及び血液検査からデータを取得し、TTRのパーセンタイルによって層別化された血液検査からの経過年数の関数としての心不全の累積発生率を算出した。             解析: 層別化は血漿のTTR濃度で行われ、2つのコホート研究の集団毎に≦5パーセンタイル(TTR低値群)、>5-95パーセンタイル(TTR中間群)、>95パーセンタイル(TTR高値群)に分けられた*。血漿TTR濃度に最も関連するベースライン特性は95%CI正規化回帰係数によって特定され、             ベースラインの血漿TTR濃度による心不全のハザード比はCox回帰によって計算した。また、競合イベントとして全死因死亡率を使用し、ノンパラメトリックなAalen-Johansen推定量を使用して、血液検査からの経過年数の関数として心不全の絶対確率を計算した。             リミテーション: 高血圧や虚血性心疾患等の心不全の原因は特定できなかった。また、本研究ではサンプル数に限りがあるため2つのコホートにおいて異なるTTRの測定方法が使用され、白人のみを対象とした。*Copenhagen  General Population Study、Copenhagen  City  Heart Studyについて、             TTR低値群の濃度はそれぞれ7.0-19.0mg/dL、1.0-14.4mg/dL、TTR中間群の濃度はそれぞれ19.1-40.8mg/dL、14.5-38.0mg/dL、TTR高値群の濃度はそれぞれ40.9-77.7mg/dL、38.1-86.7mg/dLであった。Greve  AM, et al. JAMA  Cardiol.  2021;  6(3):  258-266.

3)血清TTRレベルと死亡リスク[疫学研究]

ATTRwt-CM(野生型ATTR-CM)患者の血清TTRレベルと生存率との関連について、血清TTRを低値群*3、高値群*3で比較した研究では、血清TTR低値群は高値群と比較し生存期間が短かったことが報告されました(HR:2.3、95%CI:1.2~4.2、p=0.03、log-rank検定、海外データ)3)

    *3:血清TTR18mg/dLを閾値として、18mg/dL以上を高値群、18mg/dL未満を低値群と定義している。
対象 : ⽣検でATTRwt-CMが証明された患者101例 ⽅法 : 追跡調 査期間中に治療を受けなかった患者をベースラインのTTR閾値 (18mg/dL)によって層別化し、⽣存率を⽐較した。解析 : 追跡 調査期間中に治療を受けなかった患者(n=101)を、ベースライン のTTR閾値18mg/dLによって層別化した。OS曲線はKaplan-Meier 法で推定し、log-rank検定を⽤いて⽐較した。 リミテーション :  ⽐較的少⼈数の患者コホートでの検討のため、検出⼒は低かった。 本研究では、⼼エコー、⼼臓MRI、核画像データ及びATTRwt-CM 患者のモニタリングにおいて重要と考えられているNT-proBNP測定
  1. 1)社内資料:臨床薬理の概要(承認時評価資料)
  2. 2)Greve AM, et al. JAMA Cardiol. 2021; 6(3): 258-266.
  3. 3)Hanson JLS, et al. Circ Heart Fail. 2018; 11(2): e004000.

2. TTR不安定化がATTR-CMの発症機序

加齢や遺伝子変異によってTTR四量体が不安定化することが、ATTR-CM発症の根本原因です1,2)
TTRは通常、四量体を形成していますが、構造の不安定化により、単量体へ解離します。単量体はミスフォールディングを起こし、集合・凝集してアミロイドを形成します2)。ATTR-CMでは、アミロイドが心臓のあらゆる構造に浸潤し3)、心臓壁の肥厚や拡張障害・収縮障害・伝導障害等を引き起こします4)
TTRが不安定化する要因によりATTR-CMは2つのサブタイプ(野生型、遺伝性)にわけられ、それぞれ異なった特徴を有しています。2つのサブタイプはそれぞれ、加齢による変化(野生型)やTTR遺伝子の変異(変異型)等により、TTR四量体を不安定化する構造変化を引き起こす可能性があります1)

ATTR-CM発症の流れKittleson MM, et al. Circulation. 2020; 142(1): e7-e22.                 [COI:著者のなかにはEidos Therapeutics, Inc. よりコンサルティング料等を受領している者やEidos Therapeutics, Inc. による臨床試験の関係者が含まれる]Ruberg  FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019; 73(22):  2872-2891.[COI:著者のなかにはEidos Therapeutics, Inc. よりコンサルティング料等を受領している者やEidos  Therapeutics,  Inc.  による臨床試験の関係者が含まれる]
  1. 1)Kittleson MM, et al. Circulation. 2020; 142(1): e7-e22.
  2. [COI︓著者のなかにはEidos Therapeutics, Inc. よりコンサルティング料等を受領している者やEidos Therapeutics, Inc. による臨床試験の関係者が含まれる]
  3. 2)Ruberg FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019; 73(22): 2872-2891.
  4. [COI︓著者のなかにはEidos Therapeutics, Inc. よりコンサルティング料等を受領している者やEidos Therapeutics, Inc. による臨床試験の関係者が含まれる]
  5. 3)Yilmaz A, et al. Clin Res Cardiol. 2021; 110(4): 479-506.
  6. 4)日本循環器学会(編). 2020年版心アミロイドーシス診療ガイドライン. P.9.
  7. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2020_Kitaoka.pdf(2025年1月参照)

3. TTRの生体内における重要な役割

プレアルブミンとして知られるTTRは、生体内で重要な役割を担うタンパク質です1,2)
主な役割として、甲状腺ホルモンであるサイロキシン(=チロキシン)やビタミンAであるレチノールと結合したレチノール結合タンパク質(RBP)の輸送が知られ、加えてTTR自身は神経の保護、記憶や認知機能維持、脳虚血からの保護等が報告されています1,2)。TTRの大部分は、肝臓で産生され、血液中を循環します7)。また、脈絡叢や網膜色素上皮でもTTRの産生が確認されています8)
TTRは四量体を形成しますが、二量体、単量体への解離も常に起きています9)。その平衡状態の中、TTRとしての役割を果たすのは四量体であり、輸送するサイロキシンやRBPも、四量体と結合することで脳脊髄液や血液へ輸送されます1)。TTRの半減期は約2~3日とされています10)
TTRに輸送されるサイロキシン及びレチノールは、いずれも体内で重要な役割を持っています。
サイロキシンは、代謝3)や脳機能の調節をする役割を担っています。成人期に不足すると、疲労、無気力、男性機能障害、体重増加、冷え性、重度の場合は鬱病につながる可能性があるとされています4)
レチノールは、生涯を通じて必要とされる栄養素で、視力、細胞分化、増殖、正常な上皮細胞の維持、免疫機能等の多様な機能の制御に関わっています5)。不足すると、夜盲症、易感染を引き起こすとされています6)

 TTRの役割
  1. 1)Liz MA, et al. Neurol Ther. 2020; 9(2): 395-402.
  2. 2)Vieira M, Saraiva MJ. Biomol Concepts. 2014; 5(1): 45-54.
  3. 3)Mullur Rashmi, et al. Physiol Rev. 2014; 94(2): 355-382.
  4. 4)Richardson SJ, et al. Front Neurosci. 2015; 9: 66.
  5. 5)Bar-El Dadon S, Reifen R. Crit Rev Food Sci Nutr. 2017; 57(11): 2404-2411.
  6. 6)Sklan D. Prog Food Nutr Sci. 1987; 11(1): 39-55.
  7. 7)Hawkins PN, et al. Ann Med. 2015; 47(8): 625-638.
  8. 8)Ruberg FL, et al. Circulation. 2012; 126(10): 1286-1300.
  9. 9)横山武司 他. ⽇本中性⼦科学会誌 波紋. 2013; 23(2): 142-145.
  10. 10)Socolow EL, et al. J Clin Invest. 1965; 44(10): 1600-1609.

お問い合わせ

アレクシオンファーマ合同会社

メディカルインフォメーションセンター

フリーダイヤル: 0120-577-657

受付時間: 9:00~17:30

(土、日、祝日及び当社休業日を除く)